陰陽トロピーの法則(第2回)

 

陰陽トロピーの法則  (前回の続きです。)

 

 陰陽の法則は、この世のすべての現象に当てはめることのできる法則です。一つの生命は、一つの物質や、一方向のエネルギーだけでできている訳ではありません。人間の「からだ」は30兆以上の細胞と、その一万倍以上のウイルスや細菌によって構成されています。それらの物質ひとつひとつにも陰陽があり、その集合体であるそれぞれの臓器が、人間という空間において相互関係の中で、陰陽のバランスをとって生きています。そこに食べものや、空気、音、出会う人・できごとによって、絶えず揺れ動く陰陽のバランスを整えているのです。

 

 「見えるもの」である「物質」は「陰」、「見えないもの」である「精神」は「陽」の象徴です。私たちが感覚器から受けとる「情報」というものは、その中間に位置するものですが、さらにその情報の中でも「言語」や「視覚」から得られる情報は「見えるもの」であり陰トロピーが強い情報です。しかし、さらに文字情報の中にも陰陽があります。例えば、「さ」「く」「ゆ」「つ」という無秩序な文字列は、あまり意味を持つことはできませんが、「つ」「ゆ」「く」「さ」と配列・整頓されると、この情報の陰トロピー(秩序)は増大し、ポテンシャル(仕事・効果を発揮する潜在能力)が高くなるのです。

 

男女の陰陽トロピー

 女性と男性は、一般的に陰と陽の象徴ですが、対照する性質によって、それぞれの陰陽が逆転している場所もあります。女性の中にも陰陽があり、一人の人間やその臓器どうしの中でも陰陽があります。特に兄弟は、陰陽のバランスがよく分かる場合が多いものです。夫婦や恋人としての陰陽バランスもとても重要で、似ている部分と、180度違う部分があったほうが、お互いがお互いを補いあい、敬いあうため、エネルギーを高めあい、長く平和に共存することができます。科学の世界では、異性間において、「視覚」という陰トロピーな情報は、自分と似ているものを好むのに対し、「嗅覚」という陽トロピーな情報は、なるべく遺伝子が異なる異性の匂いを、良いと感じるようになっていることが確認されています(*1)。生命というものは、無意識のうちに、そうした体内の陰陽のバランスを保って生存し、社会における関係性の中でも、陰陽の法則は働いているのです。

 

<*1>Jan Havlíček and S Craig Roberts 2019 “Major histocompatibility complex-associated odour preferences and human mate choice: near and far horizons”

 ほぼすべての細胞についている自分の名札のようなタンパク(主要組織適合遺伝子複合体MHC:major histocompatibility complex)を構成する遺伝子が最も異なる遺伝子を持つ個体の匂いを好む。いわゆる性フェロモン。ちなみに経口避妊薬を長期間用いると、その嗅覚が逆転し、自分の遺伝子に似ている人の臭いを好きになってしまうという実験結果もある(同著者2009)。

 

病の陰陽トロピー

 前回、物質界は陰トロピー、こころの世界は陽トロピーを必要とするということを書きましたが、正確にはどちらもそのバランスが大切だということになります。例えば、癌細胞というのは、陰トロピー(生命力)が高まりすぎて無限に増殖しつづけてしまう病です。一方の糖尿病などの病は、陽トロピーが高まりすぎた病と考えられます。癌患者さんは「べき・ねば」という陰トロピーな精神状態が強い方が多く、医者の世界では、癌病棟には「いい人」が多いとよく言われます。一方、糖を体内に保持しておく力(陰トロピー)が弱まって尿に糖が出てしまう糖尿病などの生活習慣病は、「べき・ねば」という精神が弱い、陽トロピーが優位な人の病と考えられます。糖尿病などの病棟には「変わった人(自分の感性に忠実な人は変わっていると言われます)」や「ワガママな人」が多いとも言われます。ただし、これも傾向ですので、すべての人がそうでもない。というのが現実世界の奥深さでもあります。陰陽はどちらが良い悪いという二元論ではないのです。

 

 「病」というものは、うまく行っていた家庭の陰陽バランスが崩れて、家庭内不和がうまれるのと同じように、心身の陰陽のバランスが崩れることによって生じているのです。家族は一つのからだのようなものなので、そのどこかに不調がある場合は、何かの陰陽バランスが崩れているのです。そうした陰陽の乱れを調整するのが、薬や文字情報であり、医療やアートの役割なのです。

 

薬の陰陽トロピー

 「薬」にも陰陽があります。生命力の源となる陰トロピーの強いもの、つまり純度の高いものは、その分、ポテンシャルも高くなります。ですから、西洋薬のような化学薬品は、物質の純度も高く、陰トロピーが高いものなので、作用部位が限定され、その効果も強く早くなります。しかし、こうした薬はポテンシャルが高いが故に、長期間使用すると心身の陰陽バランスがどんどんと崩れていってしまいます。これに対して漢方薬は、西洋薬ほど純度は高くないので、もう少しマイルドに効果を発揮します。自然界の中で生かされている人間にとっては、ある程度の自然法則に則った治療法のほうが、多くの場合は陰陽バランスの回復が自然に得られます。ただし、漢方薬の世界でも、一つの漢方薬の構成生薬の数が少ない、陰トロピーの高い処方になるほど、効果は高くなるという法則があります。芍薬甘草湯という薬は、芍薬と甘草という2種類の生薬だけから構成されているため、効果も15分程度とすぐに効果を発揮しますが、そのような処方は、漢方薬と言えども短期間の使用にするべきなのです。

 

 西洋薬のような精製された純度の高い薬は、効果が限局的で強いがゆえに生体のバランスを崩してしまうため、一時的に用いるのが良い。と繰り返しお伝えして来た背景には、そのような力学的な問題があるからです。

 

 機械によってつくられたものは、ブレが少なく秩序があり、人間が作るよりも陰トロピーが強くなります。現代生活は、精製された砂糖や食塩、アルコール、あるいは短い文章のニュースや動画、監視によって得られる安心といった陰トロピーの高い世界がいまだかつてなく渦巻いています。その象徴がコロナ禍という「見えるもの(陰)」に対するアレルギー反応なのです。陰トロピーの高い状態は、限局的な視点を生み出し、ときに本質を見失います。陰トロピーを増大させる精製品や情報の長期連用によって、心の陽トロピーを失わないように心がけてください。

 

 

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